「え、何やってんの? バカ?」
滅多に人の来ない半物置と化している部屋の押入れを開けたら、沖田が体育座りでちょこんと小さく丸まっていた。
「バカはひどくね?」
傷ついた、という顔を、山崎にしてみせる。
「だってバカじゃん。寒いのに何やってんスかこんなとこで。かくれんぼ?」
こんなとこに隠れてたら一生見つけてもらえませんよ、と山崎は早口で言って、押入れの中を覗き込む。
「……お前が来たじゃねーか」
「俺は探し物ですぅー」
「探し物?」
「書類がね、もうすげー多くてわかんなくなりそうだから、使ってないファイルないかなーと思って。……なさそうですね」
押入れの中には、沖田が尻の下に敷いている古い布団の他には何も入っていない。山崎は溜息を吐き肩を落として、自分を見下ろす沖田をもう一度見上げた。
「で、何してんです?」
「隠れてんの」
「鬼は誰?」
「…………近藤さん」
ぼそ、と呟くような沖田の回答に、山崎は一度大きく目を見開いて、それから勢いよく噴出した。そのまま腹を抱える勢いで大笑いする山崎に沖田はむっとして身を乗り出す。
「笑うこたねーだろィ」
「いやー笑いますよ、笑います、これは。……で、何したんです?」
近藤に叱られるのが嫌で押入れの中に隠れるなどとは、まったく子供のすることだ。普段山崎に対して大人ぶって見せるくせに、こういうところは子供なんだなあと思えば笑いも堪えきれない。
にやにやと口元を緩ませながら尋ねる山崎を軽く睨んだ沖田は、拗ねたように唇を尖らせて答える。
「かんざし」
「かんざし?」
「折った」
「はあ?」
「折ったっつーか折れたの俺悪くねーもんあんなとこに置いとく近藤さんが悪ィよ絶対!」
きれいに包装されたプレゼントみたいなものが放ってあって、何だこれと思いながらも触らずにおいたのだけれど、うっかり足を滑らせてこけた先にそれがあったためにうっかりぽっきりいってしまったと。そしてそれはやはりというか、志村妙への贈り物であったようなのだ、というようなことを、沖田はまくし立てた。
「だから俺は悪くねーの!」
ぎゅう、と尻の下に敷いた古い布団を握り締めて言う。
かわいい。という感想を、山崎は寸でのところで飲み込んだ。
「でも、隠れてるんだ」
「…………」
「ばれたら、怒られると思ったから、隠れてるんでしょう?」
悪いことしたと思ってるんだ? と子供にするように顔を覗き込んで聞けば、沖田が珍しく困ったような顔をして、ぐっと俯く。だって、と気の弱い声が零れた。
「だって、あれ、ぜってー大事なもんだろ」
すげえきれいに包んであったんだぜ。
いつになくしょんぼりとした風に背を丸めて言う沖田の姿に、山崎は口の端を上げる。どうしよう、かわいい。けれど今それを言ってしまったら怒られるなあ、と少し笑って、山崎は、そうですね、と頷くだけに留めた。
かわいいなあ。かわいい。どうしよう、可愛い。愛おしいなあ。
その気持ちが滲んでしまったのか、沖田が大きな目をくり、と動かして山崎を見る。再び拗ねたように口を尖らせて、ん、と腕を突き出した。
「ん?」
「来いよ」
「は?」
「寒ィから来て」
ぐ、と山崎の腕を掴んで力任せに引っ張る。腕だけ上に引っ張り上げられて山崎は情けない声を出し、かわいい恋人の照れ隠しの我侭に、渋々を装って従った。
ぴったりと閉めた襖の隙間から漏れ入る光以外の光源がないので、視界はぼんやり薄暗い。闇に目を慣らすのは互いに得意なので、まったく見えない、というほどでもない。
まったく見えない、というわけではないのに、沖田の手がぺたぺたと山崎の顔形を確認するように動くので、山崎はうう……と唸って身を捩った。
「何ですか」
「何でもねーよ?」
「くすぐったいですよう」
沖田の手が、顔を離れて首筋から耳の裏をくすぐるように動く。ぞわぞわとして体を捻りながら抗議の声を上げれば、沖田がへえ、とひどく楽しげな声をあげた。
「知ってるかい? くすぐってー所ってのは、性感帯なんだってよ」
言いながら、耳の裏側をくすぐって、髪をかき上げうなじを撫で、そのままするすると手を動かしていく。言葉とは裏腹に決していやらしい動きではないそれは、山崎に快感よりもくすぐったさを与え続けた。
「ちょ、うわっ」
脇腹を擽られて、山崎の体が跳ねる。
「ちょ、ま、……もう!」
動く手を止めようと腕を押さえても逃げようと体を捩っても、沖田のいたずらは一向にやまない。もとより山崎も本気で抵抗しているわけではなく、きゃっきゃと笑いながらされているのと同じように沖田に手を伸ばした。
「うお、まっ、」
「あれ? 沖田さん脇弱いの?」
「ちょ、ま、待って山崎、待てって」
反撃とばかりに脇を擽られ慌てる沖田の様子に、山崎がにい、と笑みを浮かべて、いっそう攻めを激しくする。脇と脇腹を交互に擽れば、じたばたと暴れた沖田が山崎の腕を掴んでぐい、と自分の方へ引っ張った。倒れる山崎の背中を指先でそっと撫でれば、山崎が高い声を出す。
「沖田さん!」
「あれ、山崎、背中弱いの?」
楽しそうに笑って言う沖田に、山崎はわざとらしく唇を尖らせて、「知ってるくせに」と拗ねて見せた。
抱き合うような形になってくすくすと笑っていれば、不意に遠くで人の足音が聞こえた。
じゃれあっていた二人は思わず顔を見合わせ動きを止める。
部屋の前を話しながら数人通り過ぎる気配がして、それきり、再び静かになった。
沖田と山崎は唇に人差し指を当て、「しー」と子供のように笑いあう。楽しくなったのか山崎がぎゅう、と沖田に抱きついて、沖田がそれを柔らかく、ふわりと抱きしめ返した。
「ちゃんと謝りなさいよ」
沖田の肩に頬を当てるようにして、山崎が言う。
「俺も一緒に謝ったげるから」
「……お前は俺のかーちゃんかよ」
あやす様に沖田の頭を撫でる山崎の手を取って、沖田が苦笑し、そう言った。
そのままちゅう、と軽い音を立ててキスをする。
山崎はおかしそうに笑って、
「沖田さん、かーちゃんにこんなことするんですか」
とからかった。沖田はそれににやりと笑い、「うっせえ」と文句を言いながら再び山崎の脇腹を軽くくすぐる。体を軽く捩ってきゃっきゃと笑う山崎の少し高い笑い声と、小さく押し殺した楽しそうな沖田の笑い声が、しばらくその、薄暗い、寒い、少しかび臭い、誰も開けない押入れの中に響いて止まなかった。
夕食の席に二人揃って姿を現さない沖田と山崎が手を繋いで押入れの中で眠りこけているのを土方が発見したのは、それから三時間後の話だ。
「同い年の沖山」で「布団の中でくすぐりあってたら」というリクエスト…だったはずなのですが、同い年というのを完全に失念していました。申し訳ありません……。そして、布団の中でなくて、布団の上で押入れの中っていう、どこまでリクエストに反抗したら気が済むんだ!みたいなものになりました。重ねてお詫びを申し上げます、ごめんなさい。
くすぐりあってたら可愛いですよねええええ!と、頂いたリクエストに過剰反応してテンションを上げたまではよかったんですが、全然その可愛い感じが出せなかった。えろっちい方向に行かないように注意をすることしかできなかった。
書き直し、とかご要望ございましたら、何なりとお申し付けください、ね!