沖田が消えた。残寒の厳しい朝である。
山崎が起こしにゆくと布団の中でいつも駄々をこねる沖田が、布団にいない。明日は槍でも降るかといささかの不安を抱えて朝餉に行けば、近藤の左隣が空いている。
そのまた隣に座るのは決まって山崎だった。間接的な隣の近藤へ、沖田さん知りませんかと聞けば、土方と顔を見合わせて、心配そうな顔で知らないと返る。むしろザキこそ知らないかと聞かれ会話は終わった。
これは余程のことである。自分はおろか土方、近藤へすらも所在を報せずに沖田は消えたのだ。まさか1時間以上も厠にいるはずがない。
2月6日。カレンダーに小さく印をつけていた沖田が、その日になってこの仕打ちとは。山崎は少し落胆して、小さな仕種で箸を動かす。
沖田の気配がある。風のない、小春の昼である。
山崎は誕生日だからと近藤にこっそり休暇をもらった。珍しく土方を説き伏せたらしい、満面の笑みに感謝した。
沖田を探して屯所を歩き回る。見張りの隊士は沖田が出たのを見ていないという。裏や塀を飛び越えて、など無茶な手もあるにはあるが、屯所の中にいるのはほぼ間違いなかった。
山崎の歩いた場所に、かすかに気配が残っているのである。何度も追いかけたが、同じ縁側をぐるぐると回るだけに終わる。監察失格だ。
何十周と数えるのが面倒になったところで溜息をついた。
あまりにも理不尽だ。自分とて新しいミントンを買いに行きたかった、ゆっくり部屋で休みたかった、誰かに祝ってほしかった――ああ。帰結はいつでも沖田なのだ。
なぜかと考える。歳が近かった。なんとなく一緒に行動していた。好きだといわれた。好きだといった。
そういえば沖田は明らかに何かを隠した様子で、この最近を過ごしていた。それでも、やっぱり楽しげだった。
そこで山崎はあいまいに気づく。意地悪な少年は、なぜ身を隠したか。器用なふりした少年の、曲がりくねったこころの先を。
沖田がついに現れた。残照の残る、長い宵の口である。
灯台下暗しとは何もかもに当てはまる言葉だと思った。ただ単純に、沖田は山崎の部屋の押入れに身体を丸めて潜んでいた。本当に監察失格だ。
気配がしたと反論すれば、自分の持ち物をさまざまな隊士に持たせていたのだという。
「反則ですよそれぇ! っていうか俺犬扱い?!」
「鋭すぎるおまえが悪いんでさァ」
沖田は伸びをする。身体がすっかり硬くなっている。
「なんでこんな面倒なことしたんですか」
そう聞けば、沖田は大きな瞳を意地悪げに細めた。
「誕生日だからってハッピーエンドじゃつまんねェだろうに。溜めて溜めて一気に撃ち出す、かめはめ波方式でさァ」
だが俺にはちと難儀でしたねィ、と首を回しながら続ける。
「俺が沖田さんのこと探さなかったら、どうするつもりだったんです」
呆れた風な表情をつくると、あーあーありえねェよ、とさもそれが世界の摂理であるかのように沖田は言う。
「だって山崎、俺のこと好きだろィ?」
「……そうですね、」
夕餉はふたり並んでとった。近藤は驚き、土方の額に青筋が浮かぶ。ふたりの詰問を飄とかわす沖田と、目配せをしてひとつ笑った。
レナのryanさまよりいただきました、沖山です。(普段は高近で活動されています)
リクエスト受付ということで甘えさせていただきました。
沖田さん可愛すぎる上に、それを必死で探す山崎がものすごく可愛い。誕生日の時間をまるまる沖田に捧げて、そんだけ沖田のこと大好きって再確認できたんだからよい誕生日ですね!と山崎の肩を叩いてあげたいです。可愛い。