だだっこ



 屯所の塀越しに、宵の明星が輝いていた。紙束に向かう土方には、見えるはずもない。
 しずかに襖を開けたのは、部下の監察である。
「副長、局長が宴の用意ができた……と」
「宴?」
 土方は訝しげに山崎を見る。まるで知らぬといった風だ。
「毎月やるじゃないですか、誕生日のやつですよ。月末は上様の警護でそれどころじゃないってことで、今日」
 あんた人の話聞いてなかったんですか、とは言えそうになかった。殴られそうだ。せっかくの誕生日、ミイラ男の仮装をして宴に出席というのは全身全霊をかけて避けたいところである。
「誰祝うんだよ」
「俺と佐倉と大崎、あと、楠木さん」
「お前もか」
「そうです。俺ね、今日がちょうど誕生日なんですよう」
 うりうりと嬉しそうな姿を隠さぬ山崎を尻目に、土方は新しい煙草に火をつける。誕生日になど興味はなさそうで、山崎にも何も用意してはいまい。このような無頓着な男が女にもてるというのだから、世界はどうしようもなく理不尽である。
 そしてそんな理不尽な男に、自分がなぜ恋うているのか。この問いを放棄してずいぶんと経つ。
「生憎、何も用意しちゃいねェよ」
「そんなこったろーと思ってましたよ」
「いい心がけじゃァねえか」
 積み上がっている書類。土方は動こうとしない。行きましょうよ、と山崎が口を開きかけると、薄く手叩きと歓声が聞こえてきた。
「あぁ……始まっちゃった」
 俺も今日の主役なのに。独り言。
 普段日の目を見ぬ山崎にとってはこれ以上ないほどお誂え向きの宴であろう。飛んでいきそうなものだったが、(実際に土方も飛んでいくだろうと思っていたが)、山崎も動こうとしなかった。
「行かねえのか」
「行きますよ」
 あんたと一緒に。
「俺ァ仕事が残ってんだよ」
「なら俺が手伝います」
「あァ?」
 土方は心の底から不可解だという顔をした。山崎は言い募る。
「誕生日ですもの、今日は俺が主役です」
 ばっさりと言い切った。何か調子に乗ったのか、いやに強く出ている。
 だが山崎は山崎で、土方は土方である。ひとつ自分に近づいた、そうして驕る青年に土方は噛み付く。
 弱く声を漏らすさまは普段と変わらず、薄く笑んだ。








レナのryanさまよりいただきました、土山です。(普段は高近で活動されています)
リクエスト受付ということで甘えさせていただきました。
山崎が可愛いです山崎が可愛すぎて何かがふっとびそうです。本当に可愛い。主役だからって主張してやりたいことが土方さんの傍にいることとか、どんだけ可愛いんだ。
こう、甘すぎない甘さというか、距離感が自分の中の土山の理想そのまんまで滾りました。萌えすぎます。