薄暗い路地裏で、手負いの獣を一匹見つけた。
「よォ」
びくり、と全身を緊張させてこちらを見上げたそいつは、こちらの姿を認めて少し眉を寄せた。どういう意味を持っての表情なのかは分からない。少し唇を歪ませ何かを言おうとして、結局止めたようだった。身構えているのが丸分かりで呆れる。左手が右腕を押さえていて、黒い隊服が更に黒く重たくなっていた。血の香り。
「なァ」
「……………」
「テメェをこのまま攫ったら、真選組はどうなるんだ?」
聞けば、はっと笑い飛ばす声。
「どうもならないさ、俺如きじゃあ。バカかアンタは」
違いない、と笑う。利き腕をやられて敵の前に姿を晒して無駄口を叩くような奴を一匹攫ったところで、何になる。
「優秀な監察が聞いて呆れるぜ」
手を伸ばせば、少しびくりと肩を揺らした。引く身体に構わず、顔に触れて頬についた血を拭う。少し乾いてねばつく其れは強く擦れば容易に取れた。返り血だった。
濃い血の香りがしている。右腕が重たそうに垂れている。
「どうせなら、傷の手当して欲しいんだけど」
穏やかな目でこちらを見ていた。利き腕の傷を晒して、そんなことを言った。
今度はこちらが鼻で笑い飛ばさなければならない番だった。
「……そういうのは、テメェの巣に帰って飼い主にでもやってもらいな」
山崎はその言葉に少し笑って、ご尤も、と小さく言った。血の匂いばかりをさせながら。


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