眼球に薄く靄が掛かっているようでひどく気持ちが悪かったのでごしごしと擦ったら案の定見咎められて手首をぎゅっと掴まれた。いけませんぜ、と言われたので、目が、とだけ言う。瞬きをしてみたりぎゅうと瞑ってみたりするがどうにも違和感が拭えなく気持ちが悪い。手首を握られたまま目を擦ることを許して貰えないのでもう一度か細く、目が、と言った。少しの間を置いて、痛むの、と問われたのでいいえと答えた。痛むのでなくて気持ち悪いんです、と言えば、待ってな、とだけ言われて手首をやっと離された。擦ってしまおうと思ったのは簡単に見透かされて、擦ったら駄目だぜと釘をさされた。仕方ないので大人しく待っていると、はい、と言って目薬を渡された。これをさしてみなせェな、と言われたのではいと答えて素直に目薬の蓋を開ける。天井を向くようにして、左手で上下の瞼を固定した。ぽとり、と落ちる液体がなかなか目に入らないのはどうしても瞬きをしてしまうからだろうか。それとも目が細いせいだろうかと考えながら二度、三度と液体を零すがなかなか入らない。苛立って、できません、と泣き言を言った。少し溜息を吐かれて貸せと言われたので素直に渡した。いつもと立場が逆だなァと思ったが言えば怒られるかと思ったので言わずに思うだけにした。瞼を人に押さえつけられて液体を眼球にぶつけられるというのはどうにも恐ろしい。自分でやるよりいっそ恐ろしい。やはり瞬きをしてしまったが怒られることも呆れられることもなかった。三度やってようやく綺麗に入った。頬は零れた目薬でべたべたとしていて気持ち悪かったが、すうと薬のしみこんだ眼球は先程より少しだけすっきりしたような気がした。気がしただけかも知れないがあまり気持ち悪くなくなったのでそれでよかった。ありがとうございます、と言うと顔をじっと見られて、なんですか、と聞いても答えてもらえない。瞬きをすれば、長くもない睫についていた薬の雫がぽたりと零れた。涙みてェ、と言われた。ロマンチストだなあと笑うより先にべたべたとする頬に手を滑らされて、それと反対側の頬にそうっと唇を付けられた。薬を舐め取って苦い、と文句を言うので、舐めるもんじゃァありません、と笑う。うん、と返ってきた返事は子供のようで、もう一度頬を舐めて瞼の上に唇を落として、苦い不味いと文句を言った。それが存外気持ちよかったので、そらそうですよォなどと言いながらもう少しこのままがいいなァと愚にもつかぬことを、甘えたように、考えている。
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