また人殺しかい、と声をかければ狗はぐるりと振り向いて微かに嘲笑したようだった。
「仕事ですよ」
「きたねえ仕事だな」
「汚い?」
ははっ。狗は乾いた笑い声を漏らす。
「きれいも汚いも、俺たちの仕事ってこういうことでしょう?」
「一緒にすんなよ。少なしお前以外は、好き好んで人を殺しにゃ出かけねえ」
「どうだか」
馬鹿にするよう弧を描く狗の唇は赤い。死骸を喰らいでもしたようだ。沖田は顔を顰め、咽喉に絡んだ痰を咳で払った。
「見回りで悪いやつらを見つけて懲らしめるのと、懲らしめるために悪いやつらを探すのと、何が違うんです」
「守るために殺すのと、殺したいから殺すのじゃ、随分違うと思うがね」
「……それならそれで、いいですけどね」
狗は笑って目を伏せる。子どもの駄々に苦笑するような仕草に苛立って、沖田は山崎の手首を掴んだ。白く細い腕を引けば、あっけなく山崎の体は沖田の胸元へ転がり込む。
噛み付く勢いで唇を合わせれば、山崎の手が沖田の頬に伸びた。
血の味は、しなかった。
「……人を殺してきたばかりの俺に欲情できる、あんたの方が異常です」
「拒まねえならてめえも一緒だろィ」
低く言えば山崎はけらけらと笑う。皮膚から微かに血の匂い。
どっちにする、と聞けば、俺の部屋に行きましょうよ、と言って山崎は歩き出した。当たり前のように繋がれた右手を見る。
前を向いたまま、
「どーしても気にくわなくなったら、あなたが殺してくださいね」
狗は歌うようにそう言って、繋いだ手に軽く力を込めた。
利き手を繋がれていては、刀を抜くことも叶わない。
ふわふわと香る血の匂いに段々酩酊していく。きっと首を絞めてやろう、と沖田は今夜の趣向を決めた。