触ったって、柔らかいわけではないし特別肌理が細かいわけでもないし別にちょっと触られたくらいじゃくすぐったいだけで変な声も出ないし、何が楽しいのかなぁと心底不思議だが黙っている。何に遠慮をしているのか知らないが、沖田は唇には触れない。キスだけはやめて、とかいうどこかの娼婦の言葉を思い出す。ドラマだったかな。漫画だったかな。山崎がそれを見た記憶があるということはほぼ確実に沖田もそれを見ているはずで、同じことを思い出して唇に触れないのだとしたら腹が立つなぁ、と少し思っている。
 別にお金をもらっているから黙っているわけではないし脅されているから抵抗しないわけでもないのだ。お金ももらっていないし脅されてもいない。いや、脅されているのか? 拒んだら沖田が傷つくだろうという、その点において。
 触って舐めて撫でて吸って噛んで抓って満足したのか沖田は顔をあげ、最後に頬にちゅっと唇を落とした。「山崎ィ、触らせろィ」の一言で山崎の服を剥いで転がして好きに遊んだくせに、肝心なところには一個も触らないのでますます不思議だ。何が楽しくて? と首を傾げたくなる。
 自分で乱した山崎の服を丁寧に元通りにして、薄く笑った沖田は子供にするように山崎の頭を撫でた。
「ごめんな」
 いつもこのときの沖田が泣きそうに見えるので山崎は嫌いだ。
 抵抗して傷つけたくないから暴れず騒がず黙っているのに、何も意味がなかったような気になる。そんな顔で謝るくらいなら最初からしなければいいのに、という、正論を吐きそうになる。
「何か飲むか」
「いいえ」
「腹減った?」
「いいえ」
 そしてそんな顔とそんな声で山崎を殊更甘やかそうとするので、よくない。愛ではなくて贖罪だろう、こんなの。
 なんでこんなことするの。聞きたかったが聞けないのは、答えを聞くのが怖いからだ。ただの興味、とか、別になんとなく、とか、そんな答えが返ってきたら無意味に失望する気がする。じゃあなんの希望を抱いているの、とは、うまく言葉にならないが。
 代わりに、
「もうちょっと傍にいてください」
 言った。
 困ったような顔をしていた沖田はちょっと目を見開いて、それからへらっと口元を緩めた。やはり、泣き笑いのように見えた。
「仕方ねえなァ」
 声が嬉しそうでちょっと安心する。手を伸ばせば繋がれて体温にほっとする。
 ごめんねじゃなくて好きだよとか言ってくれれば、黙っている自分の行為にも意味が生まれるのに。益体もないことを思いながら、繋いだ手の指を絡ませて、山崎は目を閉じた。