赤とも橙ともわからない紅を唇に塗りながら
「俺、女だったらよかったなァ」
と突然山崎が言い出したので面食らった。
「はあ?」
寝転がっていた上体を思わず起こして声をあげる。山崎はこちらを見ないまま頬紅を取り出して、指先にちょんとそれを乗せている。
「なんで」
「え。沖田さんのことが好きだから?」
「は?」
何言ってんのコイツ。
「女だったら、好きって言えんじゃん、ね」
「いや、今言ってるし」
「違くてもっとこう、さあ」
へら、と笑って、今度は櫛を手に取る。
「口吸いたいとか触って欲しいとかそういうことなわけですよ。気持ち悪いっしょ」
「うん」
傷つくかと思ったけれど山崎はふは、と笑っただけだった。
じり、と這うように近づいてみる。小さな鏡を覗き込んでいる山崎はそれに気づかない。
「山崎」
名前を呼んだら、はい? と間の抜けた声で返事をして振り向いた。
唇に、唇で触れてみる。
ぺろりと舐める。
紅は、思ったよりも苦かった。
「……、」
山崎は今度こそ傷ついたような泣きそうな顔をして、口元を押さえる。その指の先まできれいに手入れされていて本当に女のようで気持ちが悪い。
「かわいそうだな、お前。そんなに俺のことがすきなの」
聞けば、少しの間を置いてこくんと小さく頷く。
頭を撫でてやればきゅっと眉根を寄せて、
「沖田さんなんてきらいだ」
泣きそうに言うのだけ、ひどく可愛い。