あの人はとても悪趣味だ。
俺を殴ったその手で優しく俺に触れて、俺を払ったその腕でひどく優しく俺を抱く。
無体なことを平気でする癖に、終えた後は必ず大丈夫かと気遣う素振りを見せる。
今日は特別ひどくて、何人も斬り殺して誰のものとも分からない血で汚れてボロボロになった俺に、まるで労わるように自分の隊服を差し出して、着てろと一言そう言った。
何でまた、と不思議に思って自分の姿を見下ろせば、なるほど上着は着れたもんじゃなくシャツのボタンはどこかへなくなり、袖は切れ、まるで犯された女のようにひどい有様だった。
哀れに思ったんだろうなァ、と気付いて笑う。
俺をこんな哀れな境遇に繋ぎ止めているのは自分の癖に。
(……本当、悪趣味だなぁ……)
羽織った隊服からは、慣れた煙草の匂いがした。