「キスをするときにはね、目を閉じるもんですよ」
両の目を見開いたまま緩く閉じた唇に近づけば、山崎が困ったように笑った。困ったように笑って、白い手を俺の頬へ滑らせて、
「ね?」
なんて甘ったるい声で言う。ので、その手の暖かさに促されるように目を閉じたら、緩く閉じた唇があっちの方からこっちの唇にぶつかって、重なった。
心臓がどくどくと音をたてて、瞼の奥がちりちりとしてる。泣きそうだ。黒い柔らかい髪に指を差し込みたいな、とか、手を握りたいな、とか、頬に触れたいな、とか、抱きしめたいな、とか、思うことは沢山あるのに身体がちっとも動かない。
息を少し吸うために唇を小さく離して、それからもう一度、今度は俺の方から触れた。次に離れたときは、山崎の方から唇が近づいた。
それを何度も何度も繰り返す。閉じた瞼の奥で涙が滲んでんのがわかる。
……キスをするときに目を閉じるってーのは、誰が、考えたんだろうなァ。
できることならこのありえない程近い距離、きれいなきれいな、本当にきれいなこいつを、ずっと見つめて、できることなら一生覚えておけるくらいにしておきたいんだけど、なァ。