※IN鬼兵隊

山崎の体には細かな傷が無数にある。鮮やかに紫に染まっている痣もある。
「テメェの主人は乱暴だなァ」
切れている唇の端を指で強く押さえて言えば、山崎は嫌そうに顔を顰めた。
「俺の主人は、あなたですよ」
傷を押さえる指から逃げ出すように首をいやいや振ってみせる。こんなに平気な顔で血を滲ませていて、それでも傷は、痛いのだろうか。
高杉がその傷に唇を寄せれば、山崎は大人しく目を閉じた。軽く舌を這わせれば沁みるのか、肩がこわばる。
「ねえ。俺を、」
すてないでくださいね。と、小さく山崎が言った。
高杉はそれに答えず、黙ったまま傷口に舌を這わせる。血の味を、味わってみせている。
「俺の主人はあなたですから」
念を押すように言う山崎の言葉が、哀れな懇願のように聞こえた。
どうだかな、と突き放せば、どんな顔をするだろう。あるいは泣いて見せるだろうか。
自分以外の誰かが作った傷口へ、高杉は飽きずに口吻けていく。
捨てないでくれというその言葉を、自分以外にも聞かせていやしないかと、そればかり、疑っている。