「子供ができちゃいますよ」
と、突然山崎がそう言った。
「は?」
「こんなことばっかしてたら、子供ができちまうかも、しれないですよ」
くだらない冗談を言うものだと思って顔を覗き込めば、山崎は面白くもなんともないような顔で、静かに自分の腹を撫でている。
「馬鹿か、お前」
「だって」
女の人だって、種がなくても、想像妊娠ってものをするようじゃないですか。だったら俺も、と山崎は言って、それきりふつりと黙った。笑わないままじっと無表情でいるので、何を考えているのか分からない。
女は、確かに時々こういう顔をする生き物だ。腹の底で何を考えているのか分からない、どこか気味の悪い部分をもった生き物だと、土方は思っている。けれど、山崎は男だ。
男だから本当は、考えているだいたいのことなど、土方には分かるべきであったし、それに子供などは、どうあっても絶対に、出来るものではないのだ。
「どこから生まれるだろうなぁ。きっと、俺は男だから、子供ができても気づかないでしょうね。気づかないまま育てて、きっと、腹でも食い破って出てくるんじゃないでしょうか」
「…………」
「そうしたらきっと、土方さんは」
そこで言葉を切って、山崎は何か考えるように首をかしげた。
そしてやっと、静かに笑った。
「大切に、するでしょうねぇ」
そうかも知れない、と土方は考えてしまって、それから少し狼狽した。
大切に、するかもしれない。自分の血肉と、山崎の血肉を分けた子だ。ふたりの命が混ざり合った命だ。大切にするかもしれない。
けれど、と続けて考える。けれどもしそれが、山崎の腹を食い破って、山崎の命を踏みにじって生まれるようなことがあれば、きっと。
「斬るだろうよ」
くだらない想像にも飽きたのか、さっさと着物に袖を通しかけていた山崎は、その言葉に顔をあげた。
「お前がいれば、それでいいだろうよ」
山崎はすこし目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。
好きですよ、と脈絡なく言うので、土方は目を逸らし、ひとつ小さく頷いた。