「あいつが殺せと命じたら、お前は俺を殺すのかい」
イヤホンで耳を塞いでいた沖田が流れるように言ったので、てっきり歌を歌っているのだと、そう思ったのだけれど、
「山崎ィ」
どうなのさ、とかったるそうに答えを催促するので、ああ質問だったのか、と山崎はそこで始めて気づいた。
「何でですか?」
「お前があいつの狗だから」
「ええええ、まあそうですけど」
「あいつの狗で、あいつが一番大事で、あいつのためなら命もいらないと思ってるから」
やっぱり歌うように遠くを見ながら、するすると流れるように沖田は言う。
「だから俺も、殺すかい?」
「……殺しませんよ」
「嘘だ」
「殺しません」
「あいつの命令でも?」
「だって、そんな命令、ありえませんもん」
「何で」
「ありえません」
「わかんねェぜ。俺はあいつがキライだから、あいつの作った決まりなんか破って、ここを逃げ出すかもしれねぇよ」
「嘘」
「わっかんねーだろ」
「それでも、ありえません」
「何で」
だって、と山崎は口篭って俯いた。
沖田はそれをちょっと見て、困ったように少し笑った。
「だって、……」
「いいよ。わかった。お前は俺を殺せねぇだろ。知ってるよ。困らせてごめん」
「……うん。そうです、俺はあんたを、殺せないから」
だから、と山崎は沖田を見て、悲しそうに眉を下げた。
「裏切らないでくださいね」
誰を? 山崎を? それとも山崎のご主人様を?
そんな答えは聞かなくても沖田だって分かっているので、ただ、うん、と静かに頷いて、ごめん、ともう一度謝った。
(あの人が、殺せと命じたら)
そっと目を伏せて山崎は視界から沖田の姿を消す。
(俺はきっと、殺すだろうから)
そんなことは、ありえないことにしておいて。