冷たい肌が、すべる手から熱を与えられていく。触れられない部分までどんどん熱くなっていくのが分かる。息を詰める山崎を土方は時々ちらっと見上げ、時にはそのまま目を伏せ、時には満足そうに笑ってみせる。
「……は…ぁ…」
「声、我慢しとけよ」
言われなくても、と言い返したいが、言えばきっととんでもない声が出てしまうだろうから奥歯を噛んでやり過ごした。熱は、次から次へと生み出されていく。
(これは、仕事だ)
声をかみ殺すように唇を噛み締めながら、山崎はきつく目を瞑った。
その間も土方の手は、指は、唇は、無遠慮に山崎の肌を滑り、掠め、痕を残していく。
(俺は、この人の部下で、これは、だから、仕事だ)
噛み殺せなかった吐息が時折漏れ、それが耳に届くたびに山崎は泣きそうになる。
甘たるい、どうしようもなく甘たるいその声に、泣きそうになる。
「ん、……んっ、はぁ、…」
「退」
甘たるい声で名前を呼ばれて、まるで、好きだからそうするとでも言うように唇を寄せられて、いよいよ本当に泣きそうになった。
(仕事だから、俺は、この人に抱かれるのだ。俺は、この人に、)
きつく噛んで色の変わってしまっているだろう唇をざらりと舐められ背が震えた。
唇を貪られる間、肌を撫でられる間、熱を高められる間、霞む意識で山崎は必死に言い聞かせている。
この人に恋などしないと、繰り返し言い聞かせている。
(恋などしない。恋じゃない。だからこの人が、俺以外の何かが一番で、俺の命を犠牲にしてまで守るものがあったとしても、ちっとも悲しくなんて、ないんだ)
浮かされる熱の不安定さに思わず腕を伸ばせば、土方がそれを導くように自分の背に回した。抱きついとけ、と言われて、首を横に振る。
「……そんなに、俺が嫌いか」
自嘲するように土方が言った。言いながら柔らかな動きで、山崎の目尻を拭った。
再び触れ合わされるであろう唇を、きつくきつく噛み締める。
拒絶と受け取られるだろう。土方は傷つくだろう。でも、だって、仕方がない。
好きだと言ってしまわないように、吐息も言葉も何もかも、殺しておくしかないのだから。