鈍い光を反射する剣先がするすると導かれるようにやわらかい肌に埋め込まれていった。溶けかけのチーズを切るみたいにやわやわと、吸い込まれるように。刀を握った手にあまり衝撃はなかった。どちらかと言えば刀に引っ張られるような、本当に、刀自体が意思を持ってずくりと目の前の人の体に吸い込まれているようだった。
やわらかく刺された体からは、それでもしばらくすればじわじわと血が滲んだ。刀を伝って山崎の手まで汚した。けれどその流れる血が、重力に逆らって斬られた人の全身を均等に侵食し出した辺りで、ようやっと、これは夢だと気が付いた。
乾いた布が水を吸い込むときのように、斬られたところを中心にしてじわじわと血が広がっていく。血は少し、赤すぎた。さらさらとしていた。まあるい頬の白い肌を汚したあと、蜂蜜色のふわふわとした髪を汚して、その間でかっぴろげられた目だけがこちらを射抜いている。それはもともと赤かった。血を凝固させたような、きれいな色をしていた。
その血と同じように赤い唇がゆっくりと動いた。声はなかった。形だけ作った。いいよ、と言ったように見えた。
――――――暗転。
「……山崎? おい、どうした、大丈夫か?」
耳に一番馴染む落ち着くほど慣れた声で呼びかけられて、ぱっちりと目を覚ませば見上げた天井とその視界の端に映る土方の姿が、少し滲んでいた。涙が溜まっているのだった。
「おめぇな、びびらすんじゃねえよ。横でいきなり泣き始めやがって」
呆れたように言った土方は、それでも山崎の頭を子供にするように優しく撫で、「怖い夢でも、見たのか」と優しく言った。
「土方さん……」
「ん?」
ぐずる子供をあやすような、優しい目をしている。土方は優しいのだ。面倒くさがりで厳しくて少しずるくて人を斬ることが好きなだけで、本当は優しい。
「俺は土方さんが好きです」
言えば、面食らったような顔をして、それから困ったように口篭った。照れているのだ。おめぇ何だ俺に振られる夢でも見たのか、と、甘いことを言っている。
「俺は、土方さんが、一番なんですよ」
言い募れば、土方は苦い顔をして、人を殴って殺せる粗暴な手で、意外に柔らかく山崎の頬に触れた。
「……知ってる」
いいえ、あなたは知りません。と、なお言い募ろうかどうか、迷っている。
あなたの言葉ひとつで俺は他の大事なもの全部捨てられます、と、言ってしまおうか、どうか。
手を汚した熱くて水っぽい血の感触が、生々しく記憶に残っている。
あの唇が、いいよ、と動いたのは願望だろう。夢なのだから、願望だろう。許されたいと、思っていて、それでも躊躇わず殺すだろう。
土方の手が、優しく頬を撫でている。涙を拭うような仕草でもある。
涙は未だ、眼球に留まったまま流れ落ちてはいない。
ごめんね、と謝った、それは音にはならなかった。気づいた土方だけ、何がだ? と聞いたけれど、それが誰に向けての何の謝罪なのか、山崎もよく、分かっていない。