ガシャン、と響いた耳障りな音に続けて、「つ……」と呻くような声が聞こえる。
ガラスの破片の中で蹲る山崎の髪を掴んでぐっと持ち上げれば、苦痛に歪んだ表情が血で濡れていた。額が切れて血がだらだら流れている。鼻筋の横を通ったそれは唇の横を流れて顎から滴り落ちた。一滴。それが土方の着物を汚す。
「はは……あのね、土方さん。いてーのは俺で、アンタじゃないです」
生意気なことを言って、山崎が微かに笑う。けれどそれは、歪んだような表情にしかならない。ぐい、と白い腕が自分の顔を汚す血を拭った。
「泣きたいのも俺ですよ。取らないでくださいよ」
血で汚れた山崎の指がすっと伸びて、土方の頬を拭った。濡れた感触がするのは、山崎の指に付いていた血だろうか。それとも、何か別のものだろうか。
「……お前もいつか死ぬんだろう」
ぽつりと土方の口から小さく零れたそれは、低くて、掠れていて、土方自身の耳にもほとんど吐息のようにしか聞こえなかった。けれど山崎は哀れむような目をして土方の頭を抱きこむようにする。
「……どうせ勝手に死ぬんだろう」
子供にするような仕草で山崎が頭を撫でるのに逆らわず、土方は山崎の体にきつく腕を回した。
「だとしても、それはずうっと、先のことですよ。今のあんたを、置いていったりしないよ」
だから大丈夫だよ、と子供をあやすように、山崎の手が土方の髪を柔らかく撫でる。
額から流れ続けている血は、放っておけば失われていくだろうか。
「だってほら、俺結構ひどい状況だけど、今。でも生きてるもん。生きてるでしょう。だから、大丈夫だよ」
それから、と山崎は言葉を続ける。そんなひどい状況に追い込んだ奴を抱きしめながら、甘い声を出す。
「俺を本当に殺したいときは、ちゃんと刀を使えばいいよ。そしたら俺は、あんたの手で死ねるよ。あんたが俺を殺すんだよ」
だから勝手に死なないよ。続けて言って、山崎は抱きこんだ土方の頭に唇を落とす。
「だから泣かないで」
土方の髪が、滴り落ちる山崎の血で汚れていく。
違う、そうじゃない、そういうことじゃあないんだ、と、土方は伝えたくて、けれど伝えようにも、喉が震えて、声にならない。