※IN鬼兵隊

無防備に曝け出された白い首筋を、噛み切って血まみれにしてしまいたいという凶暴なこころが胸の中で暴れまわっている。
山崎はそんなことも知らず、すうすうと寝息を立てている。
纏っている着物の色が白くて、死装束のように見えた。
もういっそ今ここで殺しちまったら清々するんじゃあねえのか、という気持ちで、高杉は山崎を見下ろしている。
山崎が帰ってきたときに限って眠れないのは、自分が眠っている間にどこかへ消えてしまわないだろうかと気にしているからだ。
自分の見ていない間に、こっそりいろんなものを持ち出して消えてしまわないかと気にしている。
いっそ、そうすればいいのだ、という気さえする。そうすれば高杉は山崎を躊躇いもなく斬れるし、そんな裏切り者は死んでしまったって嘆くこともない。
白い首筋を、血管を辿るようにして指でなぞる。
山崎の体はぴくりとも動かない。死んだように深い眠りに落ちている。
(いいんだ。どうせ、こいつが死ぬときには俺の手で殺すのだ)
世界は壊れるだろう。高杉が壊すのだ。そうすれば山崎なんて簡単に死ぬだろう。嘆いたって仕方がない。どうせ殺すのだ、高杉が。
(血が沢山、流れるといい)
生きていた証が高杉の手元に全部流れ込めばいい。
(きっと美しいだろう)
撫でていた首筋に唇を寄せて、歯を立てながら舌で吸い上げた。
内出血の後がかすれたように肌に残る。山崎が少し、身じろぎをする。
(俺がこいつを、殺すのだ)
執着じゃない。欲しいわけじゃない。愛ではない恋でもないそんなものじゃあない。
世界は壊れるだろう。そのとき山崎が世界で一等美しくあればいいと思っているだけだ。それだけだ。執着しているわけじゃない。
そうだろう? 執着じゃないはずだ。やわらかな寝息さえ今止めてしまいたいというこの凶暴なこころが、執着などでは、ないといって。誰か。