外に出てからもう何度寒い寒いと同じことばかり言っているのかわからず、自分でもさすがにうっとうしくなってきた。でも、寒い。迷子の子供を届けるために立ち寄った交番の中が暖かかったので余計だ。
寒いっつったらそろそろうるさいって怒られっかな。
沖田はちらっと横目で隣を歩く山崎を盗み見た。頬と鼻が少し赤くなっている。
ずず、と鼻水をすする音がした。
「寒いっスねぇ」
あ、我慢してたのに。
会話が寒い寒いで埋め尽くされても仕様がないから黙ってたのになんだァ、と思いながら、それでも沖田は大概山崎に甘いので、「おう」と言うだけに留める。
「手、繋ぎます?」
しかし続けられた言葉には、ぽかんと口を開けてしまった。
「…………」
「……口、閉じないと喉痛くなりますよ」
「あ、うん」
「……」
「……」
「…………ダメですか?」
ず、と鼻水をすすりながら山崎が言う。頬も鼻も赤くなっていて、鼻水がちょっと出ていて、全然可愛くない。のに、可愛い子ぶってそんなことを。
「ダメなんて言ってねェだろ」
放っておいたらそのまま拗ねてしまいそうな山崎にそう言って、いいよ、と手を出したら、山崎はにっこりと嬉しそうに笑って、その手に自分の手を重ねた。
可愛くないけど、可愛いなぁ、と沖田の顔が少し緩む。
ここは往来で二人とも見回り中でばっちり制服だから、二人で並んで手を繋いでいるというのはなんだかものすごく危ない気がするが、沖田も山崎も基本的に周囲のことは気にしないたちなので、構わない。
むき出しの手は繋いでもやっぱり冷たいし、風が吹けば寒い。ちっとも暖かくない。
けれどなんだか嬉しくて、心がうきうきして、それだけで寒いのなんてどうでもよくなってしまった。
もうすぐ屯所についてしまう。それまでに、寒い以外の言葉で、二人の時間を埋めてしまわなければ、と沖田は手にぎゅっと力を入れて、乾いた唇を開いた。