人を何人斬ったとしてもそれで何人死んだとしてもそれで誰に恨まれたとしても。
俺にとってそんなことはまったく関係のないことだ。

「……4人」
「はずれ。えーと……9人、かな」
「へえ」
腕上げたな、と言って副長は笑った。笑いながら、俺の肌に付いた血を濡れた布でごしごしと擦っていく。こんなもの、風呂にでも入ればすぐ取れるというのに、跡形もなく消えるというのに。副長は自分の手が空いていれば俺についた返り血を拭いたがる。それはまるで獲物をしとめた犬がわしゃわしゃと撫でられ褒められるのに似ていて、俺は少しだけ嬉しい。
「次は一滴も浴びずに帰れよ」
「えー…さすがにそれは無理じゃねえですか?」
「無理じゃねえですよ。総悟はあれ、最初に人斬ったときにやってのけたぞ」
一滴も浴びずきれえなもんだった。
あれはいっそ恐ろしかったな。
煙草の煙を吐き出しながら副長は笑っている。その笑い方が少し凶暴である。けれど俺の肌を拭う手つきがどこまでも優しい。
「じゃあ今度は、一緒にどうですか」
「何が」
「夜の人斬り。きれいに斬れるお手本見せてくださいよ」
「俺ァ無理だぞ、返り血浴びねえなんて」
「派手にするのが好きですもんね」
「おめえも、地味なくせに殺し方は派手だよな」
「自己顕示欲が強いんじゃないですか?」
「犯罪者くせえな」
「似たようなもんでしょう」
「ちげえよ。取り締まる側だよ」
「……本当にそうでしょうか」
夜な夜な刀をぶら下げて歩いては、凶悪で獰猛で今すぐ殺さなければならないような、けれど証拠不十分で公的には殺すことができないような、そういう不逞の輩を斬っていく。それが果たして正義のすることなのだろうか。
彼らは本当に悪なのか? そうだとしても更生の余地はありはしなかったのか? 勝手な判断で命を奪っても構わないのか?
「嫌ならやめるか」
「別に嫌じゃないです」
すっかりきれいになったであろう俺の肌を、今度は副長の指が優しく擦る。
あやすような動きでもある。
「嫌じゃないですよ。俺はね、暗いこと全部、俺が担うって決めてんです。それであんたが働きやすくなるんだったら、それでいいよ」
それでも夜に一人は寂しくなることもあるので、たまには二人で行きませんか?
見ていてくれるだけでいいから。
笑いながら冗談のように言えば、副長はちょっと顔を歪めて、「山崎、」と俺の名前を静かに呼んだ。腕を伸ばされ抱き寄せられるので、大人しく体を寄せる。
「……時間があるなら、抱いてください。人斬ったばっかで、血が沸騰してんです」

人を何人殺したとしてもいくつの可能性を潰したとしてもいくつの未来を奪ったとしても、そんなことはどうでもいい。
それで恨まれても呪われても糾弾されても、どうでもいい。
正しかろうが、間違っていようが、血の匂いで眠れなかろうが夢の中でうなされようが構わない。

あなたがいいなら、それがすべてだ。