優しくするからと言われたのでできれば痛くしてくださいと言ったら土方さんは変な顔をした。
「変態だな、お前」
「違います」
違いますそういうんじゃないんです。言っても多分、この人にはわからないだろう。この人は人を殺すし人を殴るし鬼と呼ばれるひどい人だけれど神経は案外まともなのだった。割と常識的にできているのだ。だからきっと、俺の気持ちなどわからないし俺の言い分などわからないだろう。だから説明はしない。違いますよ、ともう一度言って、それだけにする。
「違わねえだろ」
優しくしてやるって、言ってんのによ。恩着せがましく、あるいは拗ねてそう言って、土方さんが俺の体に手を伸ばす。声の苦々しさとは裏腹に手つきが優しい。だから優しくしなくていいのに。そんな、壊れ物を扱うみたいにしてくれなくたっていい。
かさついた親指の腹で俺の唇をなぞって、土方さんが顔を近づける。唇を触れ合わせる直前で、「いいか」と改めて聞くものだから、この人は本当にやさしいひとなのだなあと思って、そんな人と唇を合わせることが、急に怖くなった。
「……いいんですか?」
「何が」
「俺なんかを抱いても」
覚悟がいるのは、俺でなくてきっと土方さんの方だ。俺なんか抱いたら汚れてしまう。男に欲情するなんて普通のことではないのだ。きっと汚れてしまう。おかしくなってしまう。それでもいいんですか。怖い。
土方さんは押し黙ったまま、じっと俺を見つめた。距離が近い。吐息が触れ合っている。熱い。ここで、やっぱりやめると言われたらそれはそれでショックだけど、土方さんにとってはきっとその方がいい、と唇を緩く噛んだ俺の手を、土方さんの手がそっと握った。
やさしい触れ方だった。
指を順に絡ませるようにしていき、最後にぎゅっと力を込める。
「お前を抱きてえんだよ」
いいか、ともう一度聞く土方さんの声が掠れている。答える代わりに目を閉じれば、土方さんの唇がそっと触れた。やわらかくやさしい。触れ合わせるだけの軽いくちづけだった。繋がれた手に少し力を込めれば、濡れた感触が唇をなぞって、開いた隙間から滑り込む。
俺がこの人を汚しておかしくしてしまうんだなと思ったら怖かったけれど嬉しかった。好きになってごめんなさい、俺があんたを好きにならなければ、あんたをこんな風に汚さずにいられたかも知れないのに。
触れる唇が、手が、優しいので、ひどくして、ともう一度言った。土方さんは低く笑って、変態だな、と揶揄する。
そうです変態なんです俺はあんたのことが好きで好きでどうしようもなくてあんたをこんな風にして喜んでいてこんなことは奇跡だと思っているのにそれでもいつかあんたが離れていくのが怖くて一度こうなったら一生こういう関係でいたいとか思っているんです。頭がおかしいんです。
痛い方が覚えていられるじゃあないですか。呟いたら、土方さんは少し黙った後、優しくたって覚えてられるだろ、と事もなげに言った。忘れさせねえよ、と続けて、やさしく俺の肌に触れる。
ごめんなさいやさしくしないで。いつか思い出になるのなら、ぼんやりとした甘い夢より鋭く冷たい痛みの方が、思い出すのに容易いだろう。