俺は沖田さんにあこがれてここに入ったんです沖田さんのようになりたいんですよう。
そう言っていたのに。
「うそつき」
「え、は? 何ですかいきなり」
「今猛烈にお前にむかついた」
「はあ?」
何ですかそれ、と笑って、山崎は歯で器用に糸を切った。ぷつりときれいに糸が切れ、山崎が真っ黒な隊服をジャーンと間抜けな効果音付きで広げて見せる。
「終わりました」
「あんがと」
「もー、次から気を付けてくださいね!」
かたかたと裁縫道具をしまいながら、山崎がわざとらしく怒った顔をして見せる。俺は山崎から受け取った隊服を羽織り、袖の部分をまじまじ見つめた。
気づかないうちになくなってしまったボタンが、きれいに元通りになっている。
「別に俺ァ、ボタンなんざなくても困んねーしなあ」
「困るから俺んとこ来たんでしょうが」
「うん。俺ァ困んねえけど、近藤さんが困るし」
「だから気を付けてくださいねって言ってんの」
偉いさんに会いに行くのにボタンの取れた袖じゃあ、沖田さんもだし、局長も副長も叱られちまうでしょ。わかった風なことを言って、子供を叱るときのように目を吊り上げて見せる。
なんでそんな名前出すのかなあと沖田は少しイラついた。俺今そいつの話したっけ? してねーよねえ?
「……うそつき」
「だから、何なんですか、それ」
「俺の純情返せ」
「はあ? 俺別に沖田さんに嘘ついたことなんて、」
「何でお前」
手を伸ばして山崎の少し長い前髪に触れた。触れて、指の隙間から落として、今度は横の髪に触れて、それをそっと耳にかけてやる。指先が耳に触れた瞬間、山崎の肩がぴくっと動いた。
「なんでおまえ、あいつのもんなの」
俺のもんじゃあ、ないんだよ。
詰りながら唇を重ねた。ただかたく閉じた唇をぐいぐいと押し当てるようにした。
山崎の指が沖田の袖をつかむ。震えるそれでぎゅっと掴むので、またボタンが飛んでしまうんじゃねえの、と沖田は少し笑う。それが空気を揺らして、山崎がきつく閉じていた目をゆっくりと開ける。
「……って、言ったくせに」
「え?」
「なんで、あいつなの」
「沖田さん……?」
「ずりぃよ」
ひでえよ。俺のもんだったのに。
沖田は山崎の肩に額を押し付け、その体を強く抱きしめた。
山崎はされるがままになって、沖田の背中をあやすように優しく叩く。
「俺は、沖田さんが好きですよ」
それじゃ駄目ですか。という山崎の声が悲しそうだ。
沖田は山崎の体を抱きしめる腕に力を込めた。ごめん、の代わりのつもりだった。
お前が真っ直ぐ見るのは俺だけがいいと思ってごめんね、お前があこがれるのは俺じゃなきゃやだとか子供みたいでごめんね、お前が大切にする一番は俺がいいとか思ってごめんね。
「好きですよ」
「……知ってるよ」

(んなこと知ってて、それでも、それじゃあ足りねえんだ。ごめんね)