とりあえず、腕は痛くて上がらない。
肩をやられているのだ。あと背中も。背中の傷は武士の恥であるのであまり認めたくはないが、三人以上で寄ってたかって嬲られれば背中に傷のひとつもできるだろう。あんだけ同時に斬りかかってこられちゃあ、いかな俺でも無理があるよなあ、と思って自分を納得させている。
腕が痛くて上がらないし疲労が濃くて動きたくない。
けれど傷の手当てをせねばならない。
というわけで、沖田の傷の手当てを、なぜか山崎がやっている。真白の包帯を手際よく体に巻き付け、すこしきつすぎるくらいで縛って行く。薬の匂いが鼻につく。山崎の手当ては手際がいい。慣れている、ということが、あるだろう。人の手当ても自分の手当てもあっという間に終えてしまう。忍者じみたことを普段やっているせいか、薬の扱い方も上手い。
手際良くその手が動く。沖田はじっとその動きを見ている。
近い場所にある顔を見ないようにしている。
目が合えば、怒られるのがわかっているからだ。
「いい加減にしてください。あんたは自分を、大事にしなさすぎる」
目を逸らしていたのに怒られた。予想外だ。
「もっと、こう、斬られ方にしても、殴られ方にしても、あるでしょう。強いくせに、誰より強いくせに、何でこう、妙な傷ばっか作って帰ってくるんですか」
薬の匂いがつん、と鼻の奥を刺激する。泣きだす前に少し似ている。
「応援呼ぶとか、もっと、他に、やりようがあるでしょう。何で、こんな……」
ぎゅ、と山崎の手が包帯の端をきつく結ぶ。白い手に血管が浮き上がる。何もそんなにきつく結ばなくたっていいのに。
「山崎」
「言い訳は聞きません。俺は怒ってるんです。あんたがこんなになって帰ってくるたび、俺がどんだけ肝を冷やしてるか知ってるんですか。そりゃあ、俺もあんたも、刀握ってんだから、死んでも仕方ないって、そうは思ってますけど、でも、せめて、死なない努力は、傷つかない努力は、最大限してくださいよ。死ぬ覚悟はしてっけど、俺はやっぱり、沖田さんが死ぬのは嫌だ」
俺は怒ってるんですよ。山崎が繰り返した。声が震えている。鼻を啜るような音がして、続けて吐きだされた息が震えている。
「山崎」
「沖田さんは、俺のことが、すきなんでしょう」
「……うん」
「俺は、あんたが思ってるよりずっと、沖田さんのことが、大切なんです。俺んことが好きなら、お願いだから、自分を大事にしてください」
俺はあんたをすきだからあんたが傷つくのはどうしても嫌だ。
吐き出すように言って顔を上げた山崎と、沖田は目を合わせる。
睫毛が震えている。目を真っ赤にして泣きそうだ。噛みしめたのか唇が赤くなっている。女々しすぎんだよと言ってやりたいような気もするが、山崎の気持ちは痛いくらいに分かるので黙っておく。
ただ、真っ赤に充血した眼球がとても痛そうなことだけ気になって、
「泣いてもいいぜ」
言ったら、手当てしたばかりの傷を殴られて、その後は、告白じみたお説教の続きだ。
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