土産は何がいいかと聞いたら着物と簪と帯留を買ってきてくださいと言いやがったので軽く殴った。ごく軽く戯れのように殴ったつもりだったのに山崎は大げさに痛がった。そんくれえで泣きごと言ってんじゃねえようぜえと文句を付けながら横目で見たら確かに唇は切れていた。
嘘ですよ冗談ですよ、と血の滲んだくちびるで笑いながら山崎は言って、殴られる直前でさっと手から離していた針を再び手に取った。つまりは針で自分が傷つかないようにきちんと反応をしたというわけである。どこまでも生意気だ。しかしまあそれで針を指に刺しでもしたら血が付いて汚れていたろうな、と思えば、なかなか山崎の判断も賢いものである。なにせ、彼が今手に持ってちまちまと糸を引っ掛けた針を突き刺している黒い布は何のことはない自分の隊服であるので。
じゃあ何が欲しいんだ、と懲りずに聞けば、山崎は手元に目線を落としたまま苦笑を浮かべて首を傾げて見せた。苛っとする仕草である。噛みつきたくなる。たとえば首とか、くちびるとかに。
まあこんな質問を重ねてして見せたってどうせこいつは、あなたが生きて帰ってきてくれたらそれでいいです、とか何とか言うのだろうと高を括っているところも、あった。女でもない癖にそういう科白が似合うのである。なかなかよくできている。躾けの賜物である。
ところが山崎は少し考えた後、あのねえ、とねだるような言葉を口にした。土産でなくてもいいからさあ、と馴れたような口を聞く。きっちりと布を縫い付け終わった針を、歯でふつりと切ってみせる。
あのねえ、空の写真が欲しいな。
山崎は言って、顔をあげてこちらをみて少し笑った。馬鹿のような緩い笑い方だった。
土方さんが毎日どんな空を見たのか、今どんな空の下にいんのか、俺にもわかるように写真送って下さいよ。携帯でできるでしょ、そういうの。
すらすらと甘い声で言って、隊服を寄越す。もうどこを山崎が縫ったのやらわからないくらいに繊細に縫いつけられている。もっとこう不格好に、見るたびにああここは山崎が縫ったのだへたくそだな畜生が、と思えるような縫い跡であればよかったのになあと土方は少し思っている。
めんどくせえよそんなん。ぞんざいに言って隊服をひったくった。けれど山崎は別に悲しそうな顔をすることもなく、じゃあ土方さんが生きて帰って来てくれればそれでいいや、と、最初の予想通りのことを言って、裁縫道具をしまい始めた。別に拗ねている風でも寂しさを堪えている風でもなかったが、ちょっと可哀想だな、と思った。くちびるにはまだ血が滲んでいる。その傷を作った張本人が健やかであれと望むのが望みだなんて、どうしようもない。かわいそうだ。甘やかしてやりたい気持ちに、なる。
着物と簪と帯留と? 確認すれば、山崎はぱっと顔をあげて、驚いたような顔をして、それから嬉しそうな明るい顔をした。
空の写真と、あと電話! 何だかひとつ増えているが、それはまあ、ねだられなくても与えてやるつもりだったので、特に問題もないだろう。