転がる屍はあわせて八体。
(これを、全部一人でやったか……)
倒れている場所と残った傷。無駄なく的確に仕留めている。
闇に踊っていた人影は、自分の知るもの以外ではたったひとつだけだった。
黒く塗りつぶされた、天人のネオンの届かない場所で、闇をそのまま具現化したような、冷たい気配のする。
「あれが鬼の狗か」
高杉は低く笑って、惨劇の場を後にした。
死んだ者の数など多すぎて、弔う気持ちも、もうどこか薄い。
今はそれより興味が先だつ。
黒い髪に、黒い衣服。底冷えのするような空気を見に纏い、血の匂いがよく似合う……
(笑っていやがったな)
控えめな月明かりに一瞬浮かびあがったその唇は、確かに弧を描いていた。
胸のあたりがざわめく。落ち着かない。刀の柄を握る。抜き放ち空気を斬る。ひゅん、と高い音がして、抗議をするような風の音。
(欲しいな、あれが)
迷わず躊躇わず真っ直ぐに鬼の元へと駆け戻っていった闇色の狗。
あれに鬼の終焉と世界の終わりを見せてやれば、どんな顔をするだろう。