着物を脱いだその体には数え切れない傷があった。細かいものから大きなものまであった。刀傷も銃痕もあった。痛かったろう苦しかったろう、血に濡れて、鮮やかだったろう。
焼けるような強さで見つめる高杉の視線に、山崎は苦笑を零した。ふ、と空気を震わせたその吐息に促されるように、高杉はその体に手を伸ばした。触れた肌が冷たいのは、あるいは高杉の手が熱すぎるからかも知れない。
肩に、腕に、胸についた傷跡をひとつずつなぞるように指を滑らせる。山崎は息を詰めるようにして、じっとその愛撫とも呼べないその行為を受けている。
俺は、夢を見ていた。
どんな?
お前には傷ひとつないのだと思っていた。
はは、馬鹿な。
人を何人殺しても、お前は死なないのだと思っていた。
そう……。
死ぬのか。
ええ、いつか。死ぬでしょうね。
そうか。
傷跡を、ひとつひとつ数えるようにして高杉の指が山崎に触れる。山崎は逃げもせず拒みもせず、ただじっと、それを受けている。少しずつ山崎の肌の冷たさが消え、熱を持っていく。呼吸の間隔が少しずつ短くなる。生きているのだ、これは。そうだ、生きているのだった。であればいつか死ぬのだ。
刃か、銃弾か、病か、時間か。いつかそれらが山崎を殺すのだろう。高杉の手を遠く離れたどこかで、これは消えてなくなるだろう。
できれば刀がいい。
きっと血に濡れて鮮やかだろう。
「……俺が殺してえな」
囁きながら噛みつけば、山崎は小さく体を震わせて色付く吐息を吐いた。
いつかこれがこの世界から消えるとき、最後に傍にいるのは自分でありたい。高杉はそんな夢を見ている。啄むように口づけをすれば、山崎は小さく笑いを漏らして、高杉の頬に触れ、誘うような甘さで囁いた。
「じゃあ、今、殺して」
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