どういう関係なのかと聞かれたら上司と部下だ。それ以外ではないはずだ。土方は山崎の属する組織の役職付の人間であり、山崎にはそういった役職はない。土方からの命令を受け、それを全うし、時には下の者に指示を出す、という命令系統が存在しているに過ぎない。山崎を雇っているのは幕府で、山崎は幕府から給金を得てそれを対価として仕事をしている。土方だってそうだ。土方の上にある近藤だって結局のところ、そうで、山崎が今いる組織というのはそういうものであるはずだ。
その前身を考えれば、道場、という面もないではない。それでいけば土方は山崎の先輩にあたるだろう。山崎は後輩。上司と部下よりも幾分かやわらかく親しみのある感じになったが、でも、それだけだ。
それ以外ではありえないはずだ。
土方の唇を大人しく受け入れながら、山崎はぼんやりと考えている。
「……何考えてんだ」
山崎の下唇を緩く噛みながら、不機嫌そうに土方が言った。少し息が荒いのは、単に酸素が足りないからというわけでもないだろう。
「何がです?」
「上の空だな」
気に入らねえ、と率直に口にして、土方は再び山崎の唇をやわく塞ぐ。歯で軽く噛み、舌を差し込み、山崎の舌を捉えて吸いついたり舐めたりをする。山崎の背中を駆け上がる快感を混ぜるように、土方の掌が山崎の背を撫でる。
「……、…っはぁ……」
「何考えてた?」
先ほどより幾分か甘い声で土方が言って、弱い力で山崎の体を押した。山崎は促されるまま、畳に背中を預け土方を下から見上げる。慣れたように土方が山崎の足を割り、その間に体を収めた。畳に広がる黒い髪を一度優しく撫で、そのまま山崎の耳朶を噛む。
「何、考えてた」
「……あなたのことを」
「へえ」
「俺とあなたは一体何なのだろう、と考えてました」
は、と馬鹿にしたように土方は笑った。吐息が耳に直接かかり、低い声が鼓膜を擽るので山崎の肌が粟立った。
ぴちゃりぴちゃりと水音を立てるようにして、土方が山崎の耳を犯す。
「……ん、…」
「声出せば」
楽しそうに言うができるわけがないのだ。廊下にはまだ明りがついていて、人の気配もまだしている。いつ誰が声を部屋の前を通るか分からない状況でそんなことはできない。それとも土方は気にしないのだろうか、と山崎は考える。もし今ここで声をかけられたら、土方は応えるのだろうか。
どうだろう。わからない。が、少なくとも自分は見られたくはない、と山崎は目を閉じる。
羞恥ではない。罪悪感に似ている。
「で、答えは出たかよ」
「いいえ」
ふうん、と、自分で聞いた癖にさして興味もなさそうに言って、土方は山崎の首筋に舌を移動させた。動物がまるでそうするように大きく舐め、それから軽く歯を立てる。山崎の体が動くのを押さえつけるように体重がかけられ、そのままきつく噛みつかれた。尖った痛みが噛まれた箇所から広がり、びりびりと痺れるような感覚を残す。
「……やめてください」
「…………」
「と、言ったら。……どうしますか?」
土方は少し動きを止め、考えるような仕草をした。それからゆっくり唇を開く。情欲のせいか赤く染まったそれは、獲物を喰らっている途中の獣のようだ。
「知らねえよ。これは、命令だ」
凍るような目で山崎を射抜いた後、土方は反論を封じるかのような素早さで山崎の唇を塞いだ。
もとより反論する言葉など、山崎にはない。
上司と部下で、あえて他を探すのなら先輩と後輩で、それ以外ではないはずだ。それ以外ではあり得ない。
あり得ないはずなのに、命令だと言われればきっと自分は死にもするだろう。そう断じることができるというのは、やはりどこか、おかしいのだな、と山崎は小さく笑って、それきりすべての思考を閉じた。