※IN鬼兵隊

もし俺の目が見えなくなったらどうすると聞いたら、今でも半分しか見えないのに今更でしょうと笑われた。もし俺の声が出なくなったらどうすると聞いたら、今でもあまり喋ってくれないのに関係ないでしょうと笑われた。もし俺の耳が聞こえなくなったらどうすると聞いたら、掌の上でも紙の上でもなんべんでも好きって書いてあげますねと笑われた。もし俺の足が動かなくなればどうすると聞けば、あなたが歩かなくても自由に動けるようなからくりを探して来てあげますと笑われた。もし俺の腕が使えなくなればどうすると聞けば、あなたの代わりにあなたの分だけ俺が刀を振るいますねと笑われた。
もし俺が死んだらどうすると聞いたら、山崎はそこで初めて驚いたような顔をして、続いて困惑を浮かべて、首を傾げて俺を見た。どうする。と重ねて聞く。山崎は、そんなはずがないのでわかりません、と子供のような発音で言った。笑ってくれなかった。
「どういうことだ」「だって晋助さんは死にません」「何故だ。明日には死ぬかもわからねえぜ」「死にません。だって」「なんだ」「だって、そんな、晋助さんは俺が守るのに、命に代えても守るのに、どうしてあなたが俺より先に、死ぬようなことがありますか」
どうしてそんなことを言うんですか。山崎はほとんど泣きそうだ。目が見えなくなっても口がきけなくなっても耳が聞こえなくなっても足も腕も駄目になってもそれでも構わないと笑うくせに、死ぬと言っただけで泣きそうになっている。
「……もし俺が、」続きは言葉にならなかった。山崎の髪を撫でてみる。山崎は泣きそうな気配をすっかり消して、今度は何です、と笑ってみせる。
もし俺がお前を好きだって言ったらどうする。その言葉を全部飲みこんで代わりに山崎の唇を噛んだ。山崎は抵抗しない。言葉にしたって山崎はきっと、困らないだろう。泣かないだろう。笑うだろう。嬉しそうにするだろう。
何にも分かっていないのだ。
目が見えなくなっても口がきけなくなっても足も腕も駄目になってもそう簡単には死なないが、「もし俺がお前を好きだって言ったらどうする」。それはすなわち、今すぐにでも死にそうだと、言うことなのだけれど。