どうしてですか。後始末をする沖田の背中に、まだほのかに甘さを残す山崎の声がぶつかった。
「何が」
「なんで外に出すの」
「何でって」
ちら、後ろを振り向けば、乱れに乱れた布団に横たわった山崎が、眠たそうな目を沖田へ向けていた。目元にはまだ赤さを残し、口元は真っ赤に腫れている。首に胸に足に散った鬱血を隠そうともせず、膝を緩く立てたままだ。
沖田は答えず目を伏せて、濡れた布巾を手に山崎へと向き直った。じりじりと近づき、布巾で肌をそっと拭う。湯で濡らしたので冷たくはないはずだが、山崎の体が一瞬逃げるような動きを見せた。
「……じっとしてろよ。きれいにしてやっから」
「自分でできる」
「いいから」
「ねえ、なんで外に出すんですか」
「いいだろ、別に」
「中で出しても子供なんかできないよ」
「お前が腹壊すだろ」
「そんなの」
沖田さんには関係ないじゃん、好きにしたらいいんだよ。
ぐい、と腕を掴まれて顔を上げれば、怒ったような顔をして山崎が体を起こしていた。沖田の手から布巾を奪い、沖田に背を向けてしまう。
「関係ないってなんだよ」
「俺が腹壊したって、俺が痛い思いするだけじゃん。沖田さんに迷惑かけないよ。文句も言わないし」
「お前な」
「俺は俺が痛いのより沖田さんが気持ちいいのが大事です」
背を向けたまま山崎は落ちていた着物を手にとって袖に腕を通した。さっきまで自由に触れていた肌が沖田から隠されていく。しゅる、という音のたび、山崎の心まで離れてしまうようで沖田は少し怖くなった。さっきまであんなに近かったのに。
山崎。呼んで後ろから抱きしめた。山崎は別に逃げ出さなかった。
「……お前、女じゃねえんだもん」
「だから、子供なんてできねえって言ってんじゃないですか」
「うん。子供なんてできねえんだから、中で出したって意味ねえだろ」
「は、」
「子供ができるんならいっくらでもそうしてえけど、なんもできねえのに、意味ねえのに、お前に痛い思いなんてさせたくねえよ、俺ァ」
沖田は抱きしめる腕に力を込めた。山崎の手が、少しの躊躇いの後、その腕にすがるように触れる。
「ただでさえ痛い思いさせてんのに」
「痛くないよ」
「うそつけ」
「痛くないよ、ほんと。もう、大丈夫ですって」
「俺は俺が気持ちいいのより、お前が辛くないほうが大事」
「……」
「でもやっぱ、お前のこと抱きたいから、だったらせめて、後に残る辛いのは少ない方がいいだろ」
「……意味わかんない」
「お前が好きだよ、山崎」
山崎の爪が、沖田の腕に軽く刺さった。縋りつくようにして、うそつき、と小さな声が落ちる。
「ついでに風邪もひいて欲しくねえから、はやく布団に入って、寝ろ。な?」
「……一緒に寝てくれますか」
「うん」
「朝までついててくれますか」
「うん。好きだぜ」
「うそつき」
ちり、と痛みだけ沖田の腕に残して、山崎の手がするりと離れる。手早く帯を結んだ山崎は、沖田に促されるままに大人しく布団の中に潜り込んだ。沖田はその隣に横になる。山崎が自然に擦り寄ってくるので、頭を優しく撫でてやる。
穏やかに落ち着いていく山崎の呼吸が眠りに落ちる寸前で、
「子供ができればいいのになあ」
言葉だけ、沖田の耳に届いて残った。
きゅ、と指先で沖田の指を握ったまま、山崎は眠りに落ちてしまう。
沖田はしばらくその寝顔を眺め、それから小さく溜息をついて山崎の頭を引き寄せた。
「子供が、できればいいのに、なァ」
そしたら一生、一緒にいられるのになぁ。
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