俺はお前がいないと死ぬんだと思っていたけれどそんなことはなかった。もう二月も姿を見ていないがちっとも死ぬようなことはない。呼吸の仕方もちゃんと分かるし飯をきちんと食えている。夜もきちんと眠れているし、朝はきちんと起きれている。夢見が悪いということもないし、眠りが浅いということもない。夜にきちんと眠れているから昼寝はあまりしなくなった。めずらしいですねと笑う人がある。なるほどこれはめずらしいのだ。俺はお前がいなくなってむしろ人並みの生活ができるようになったのだ。
お前がいなくなっても俺は死ななかった。毎日、毎日、毎日、お前のことを考えているのに、お前はどこにもいないので、俺は、もう、お前のことを俺の見た夢ではないかとさえ思うようになった。名前を思わず呼ぶのも、五日くりかえしてもうやめた。俺はきっと夢を見ていたのだ。お前がどこかにいて、俺のことを好きでいてくれる、そんな夢だ。
夜に寝て朝に起きて一日に三度飯を食って、俺はちゃんと、生きている。
生きているよ。
お前がいないと飯を食わなくても叱ってくれる人がいないし夜眠らなければすることがないし朝起きないと起こしてくれる人はないし夢見が悪くても誰も慰めちゃくれないし眠りが浅くても誰の手を握ることもできない。昼寝したって起こしに来てくれる人はない。そんなことで、お前がいないことが現実だとは、思いたくない。
お前がいなくても俺は死ななかった。わかってよかった。俺はこれに慣れていかなければならないのだ、きっと。いつか、本当にお前がいなくなってしまうときのために、今からゆっくり慣れていかなければならない。
夢だったと思えるように毎日準備をしています。
でもね、死にはしなくても寂しいから、だから、はやく、帰っておいで。
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