「ひぃふぅみぃよでじっごくの鬼がぁ」
ひゅん、ひゅん、と重たい刀が風を切り、そのたびにどさりどさりと重たい音がする。
首が飛んで腕が飛んで胴が割れて血が吹き出、僅かに人の声が上がるが、山崎の耳には届かない。
黒い着物に高下駄を履いてからんからんと音を鳴らして、でたらめな歌を口ずさみながら山崎の腕が刀を操る。
「番犬いっぴきひっきつれてぇ」
雲の少ない満月のひどく明るい夜だった。黒い髪を一つに結び、軽快な足取りで地面を蹴る。からん、からん、と下駄が鳴り、そのたび地面に残る血の跡。
「夜な夜な悪人退治へとぉ、いっつむうなっなやで向かいますーっと」
どさ、と最後に重たい音が響いて、山崎の着物の裾に血が跳ねた。山崎はわずかに目を細めて、ひゅん、と重たい刀を振る。ぴゅ、と刀に付いた血が飛び、血だまりの中に小さく落ちた。
懐紙で丁寧に拭った刀を鞘へとしまってから、山崎はしゃがみこみ、転がった胴体の懐をひとつひとつ探っていく。
「今日は鬼がいないからさぁ、災難だったね。鬼の見張りがあったら、狗もこんな行儀悪くないんだけど、さあ」
答えを返さない死体から奪った紙を一つ、鍵を一つ、携帯電話を二つ、懐の中にしまいこんで立ち上がり、山崎はにこりと笑う。
「でも、今夜は月がきれいだから、きっと真っ直ぐ地獄へ行けるよ」
からん、と下駄が鳴って、ぴしゃんと小さく血が跳ねる。山崎の歩いた後を下駄の形でてんてんと血が伝い歩く。
「……こんなにしたって副長にばれたら、どやされっかなあ。やだなあ」

からん、からんと下駄の音はやがて草を踏む音に変わり、途絶えて、満月の夜に残された哀れな死体が全部で四つ。