皮膚は醜く爛れて醜悪な色を残したままそこへ留まった。眼窩に収まっていた眼球は使い物にならなくなったどころか他の部位にまで悪影響を及ぼしそうだったので抉って捨てた。空洞。暗闇。何も映さない。何もない。
お前の目ん玉穿り出して俺のここに収めたらお前の見ている世界が見えるか。聞けば山崎は少し笑った。
「俺の世界なんて、面白くもなんともないよ」
「そういうことを言ってるんじゃねえよ」
「見たってきっと、失望するよ。平坦で凡庸で退屈で空虚で、何にもない」
「…………」
「でも、そういうとこが好きだ。俺は、この世界の」
何にもない、凪いだところが好きだよ。目を細めて呟いて、山崎は笑んで高杉を、見た。伸ばした指が、高杉の左頬に触れる。爪が軽く包帯を引っ掻く。
「外してもいい?」
「見て気持ちのいいもんじゃねえぞ」
「馬鹿みたい。今の技術なら、傷跡なんて隠さなくてもすぐにきれいに戻るんだ。眼窩だってちゃんと埋まるよ。何がそんなに怖いの」
「怖くなんかねえさ。愛してるだけで」
「傷を? 過去を?」
包帯に触れた山崎の指を、高杉は握ってそのまま引いた。近づいた山崎の頬に指を滑らせ、左目に触れる。山崎はされるがままに目を閉じて、握られた手をそっと握り返すような仕草を見せた。薄く開いた唇に唇で触れる。ほんの一瞬、掠めるように。
「おめえにはわからねえよ」
「……そうだね」
「それが俺はかなしい」
「…………」
「怖いんじゃねえよ。かなしいんだ。俺が、お前のものであればよかった」
腕を伸ばした高杉に山崎は体を寄せる。全身を預けるようにして、その腕の中に体を投げ出す。規則正しい鼓動。
世界はいつだって、平坦で凡庸で退屈で空虚だ。もう、ずっと前から、そうだ。この世界が闇に満ちる前に、出会えていれば、きっと救われた。
「お前の世界が、俺の世界であれば、よかった」
奥歯を噛みしめるような気持で思いながら、それでも高杉は腕に力を込められない。高杉の着物に半端に指を引っかけた山崎が、何か言ったが、くぐもっていて聞こえなかった。宥められたようでもあるし、詰られたようでもあった。
隠しておかなければならないほど醜いのにそれでも愛しいのは一体何だ。
どうしてもっと早く俺の前に現れなかったんだと囁くような小ささで言えば、どうしてもっとはやく俺を見つけてくれないのと正しく詰るような声音が返った。ああ本当に、どうしてもっと、はやく。この両の目があるうちに。