だるい疲れたもういやだ。子供のように駄々をこねてその手を離さなかったので、困ったような顔をした山崎は沖田の傍にいてくれた。
非番なのだから、最初からそうすればいいのだ。
買い出しとか掃除の手伝いとか、そんなものは全部、断ってしまえばいいのだ。
みんな勘違いをしている。山崎は土方の小間使いようなものだが、そうして使っていいのは土方だけで、それも仕事の間だけで、そうでないときの山崎は隅から隅まで沖田のものなのに。
みんな勘違いをしている。
「何拗ねてんですか」
寝転がってじっと山崎を見つめていた沖田に視線を向け、山崎は小さく噴き出した。小さな子供にするように頬をつん、とつつかれるので、その手も絡め取ってしまう。両手を沖田に握られて、山崎は身動きが取れない。そのはずなのに笑っているから、沖田は少し安堵する。
「お前が俺だけ見ねえから拗ねてる」
「何言ってんだか。馬鹿ですねえ」
「馬鹿はどっちだよ。体よくほいほい使われやがって」
「俺の用事があるからついでにやってるだけですよ」
「非番の日なんだからおとなしく休んでろよ」
「そういう沖田さんこそ、非番じゃないんだから働きなさいな」
「俺はいいの」
「なんで」
「偉いから」
「ええー……何かそれ、ずるいなぁ」
「だるいんだもん。疲れた、もうやだ。雨嫌い」
「かわいく言ってもだめ。雨が降ったら休みとか、どっかの童謡ですか」
「こんな土砂降りの中誰も犯罪とか起こさねえよ。むしろ外に出ねえよ。見廻り行きたくねえ」
「わがまま言わないの」
「わがままじゃねえよ。お前と一緒にいたいだけ」
「……だから、それがわがままだって、言ってるんです」
「あっれー山崎クン顔赤ェけどどうしたの?」
「もう!」
 するり、と沖田の手から指を逃がして、山崎が少し怒ったような顔をする。その目元が少し赤いので、沖田はだいぶ機嫌をよくした。にやにや笑えば頭を軽く叩かれる。それすらただの戯れで、沖田にとっては幸せでしかない。
「時間でしょ、ほら」
「ちぇっ」
怒った顔と怒った声で、山崎がびしっと時計を指さす。そろそろ本当に見廻りの時間で、そろそろ本当に行かなくてはならない。沖田はわざとらしく舌打ちをして、のっそりと立ち上がった。軽く山崎の頭を撫でて、その額に唇を落とす。
「じゃあ、行ってきます。俺が帰ってくるまで、ここで大人しく待ってるように」
「ここで?」
「うん。逃げんじゃねえぞ」
「いや別に、逃げはしないけど……」
馬鹿ですねえ、と呆れたような笑みを零した山崎は、ちょいちょいと沖田を手招いた。何? と首を傾げて近づく沖田の頬に、滑る山崎の冷たい指。
「いってらっしゃい、気をつけて」
唇に触れる柔らかい唇。
「…………おっまえ、なあ、子供扱い、してんじゃねえぞ」
「子供扱いしてねえから、こういうことすんでしょ」
「…………」
「あっれー沖田さん、顔赤いけど、どうしたの?」
はやく行かないと怒られますよ。子供にするように頭を二度優しく撫でて、山崎が楽しそうに笑う。
「ああ、もう!」
外は土砂降り、雨の音。沖田は部屋を飛び出して、見廻りに急ぐべく足早に玄関へと向かった。
はやく終わらせて帰ってきたら濡れた髪を山崎に拭かせて、また我儘を言わなければ。
負けっぱなしでいられるもんか。