※325訓ネタ

俺の日に透ける髪がきれいだきれいだと飽きずに山崎は言うのだが俺はそのたび、山崎の方がきれいだし髪の色を変えたとしてもきっと俺より似合うだろう、と馬鹿みたいな夢を見ていた。
揃いでは面白くないので芸を凝らして銀色に抜いたが、それは思ったほど、きれいでも何でもなかった。無理に脱色をした髪は変に傷んで細く切れ、ところどころ静電気に操られるように跳ねた。ふわふわ柔らかいかと思えばそんなことはなく、妙に指に絡まってやはりぷつりと無残に切れた。
ああ、あの山崎はもうどこにもいねえのか、と思ったら妙に悲しくなって、けれど妙に、心が軽くなったのも、事実だ。
「沖田さん」
二人きりでいるとき、山崎は今もこの呼び方をする。
外では一応、局長、としおらしく呼ぶのだが、その呼び方が俺はあまり好きではないのでなるべく外でいるときは山崎を傍に寄せ付けないようにしている。傍に置くために、わざと残酷な役職に付けたというのに。馬鹿げている。何もかも。
「どうした?」
なるべく優しい声音で呼んでやる。かつて山崎の飼い主がついぞしてやらなかったことだ。もしかしたら俺の知らないところでは優しい声音で呼びかいぐり甘やかしていたのかもわからないが、今となっては過去のことなので、どうでもいい。
山崎は緩い笑みを浮かべて、俺に近づき、俺の肩にこてんと小さな頭を乗せた。視界の端で銀色が揺らぐ。いい匂いがするところは、昔とあまり変わりがない。
頭を預けたきり山崎が黙ったので、俺も特に言葉を持たずに、間を埋めるように山崎の手を引き寄せた。握る。前よりも少し硬くなったかな、と思うが、それはさすがに過去を美化しすぎているかも知れない。女の装いがすこぶる似合うが、それでも山崎は男なのだ。以前から、手だって硬かったはずである。
手を握った俺の動きに釣られるように山崎が顔をあげた。不自然な位置で目が合う。そのまま引き寄せられるように唇を重ねる。少し首が痛い姿勢なので、一度体を離すようにして、今度は正面から顔を覗きこむ。伏せられていた山崎の目が少し開いて、それから
「やっぱりきれい」
拙い言葉でそう言って、指を伸ばした。額を掠めた指先が冷たい。俺の前髪を掬って、俺の髪を軽く梳いて、今度は山崎の方から唇を寄せてきた。
薄く目を開ける。近い距離で目が合う。焦点が合わない。山崎は少し笑ったようで、それからゆっくり目を閉じた。瞼の縁を黒い睫毛が飾っている。
「お前の方がきれいだよ」
陳腐な言葉を口にして、俺もゆっくり目を閉じた。瞼の裏では黒髪の山崎が、屈託なく笑っている。