階段を踏む音が特徴的なので、来たのだ、と知れる。
どういう反応をするのか気になって、寝た振りを決め込んだ。こちらが無防備な姿を見せれば泣きそうな顔をするのは知っているが、どうでもいい。こんなに無防備なのに、刀を向けない相手が悪い。
襖の開く音がして、近付く気配。息遣い。
どうするのか、目を閉じたままでいれば、ばらばらと硬い小さいものが上から沢山降ってきた。
「…………」
「おはよう」
「……なんだこれ」
落ちて来たものを拾いあげてみれば、色とりどりの包装紙に包まれた飴玉だった。
「お返し」
「……何の?」
「14日の。くれたでしょ? バレンタイン」
笑みを浮かべるでもなく、困ったようにするわけでもなく淡々と言って山崎は、しゃがみ込み自分がばらまいた飴玉のひとつを手に取った。くるくると包装紙を外して、飴玉を摘んで突きつけてくる。仕方がないので口を開けば、甘いそれが口内に放り込まれた。
「何の話だ。俺ァ何にもしてねえぜ」
「したよ。くれたよ。届いたもん」
「何が」
「寒椿」
山崎はくるくる、と再び包装紙を外し、今度は自分の口に飴玉を放り込む。
「元々、好いた女性に花を贈るのが本当なんだって? あんたのやりそうなことだ」
「好いた男に何かを贈る日でもあるんだろうが。そっちじゃねえのか」
「帯刀してる男を好いて、椿の花なんて贈らないでしょう」
にい、と山崎の目が細められる。手を伸ばせば、くすぐったそうに笑いながら山崎の体が近付いた。半端な長さの髪を、梳いて、耳にかけてやる。
「どうせなら、飾って見せにくりゃよかったのに」
「ここまで? 冗談」
「なんでだよ。似合うぜ」
似合うと思ったから、贈ったんだ。
言えば山崎は目を瞬いて、少し目元を赤く染めさっと視線を逸らした。生娘のような反応で、高杉は思わず笑い声をあげた。頬を指で撫で、ちら、と向いた視線を絡めて逃がさないように。唇にくちづけて、甘い飴玉をそっと転がす。
山崎の口の中で、小さくなった飴玉ふたつがぶつかって、かつんと小さな音を立てた。
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