※ちょっとした暴力シーンがあります。山崎が可哀相です。
苦手な方はこのまま次へお進み下さい。
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「……っ……う……」
殴られた腹が痛い。
「ぁ…っ……うぁ……」
頭がガンガンする。
「つっ……ぁ……」
触れる、指が、体温が、身体を弄るその感覚が、
「やめ……っ……」
気持ち悪い。
「おいおい、顔にまで傷付いたじゃねーか」
どうすんだコレ、と聞こえる言葉に困ったような響きはない。楽しそうな笑い声が上がる。何人分の声なのか、皆目検討もつかない。
口の中で血の味が広がっている。舌を動かせば痛い。腕が上がらない。足も自由に動かない。腹も、腰も、足も、腕も、頭も、口の中も、全部が痛くてどこがどうして痛いのかもう分からない。視界が霞むのは殴られたせいで、その霞む視界の先には見知らぬ部屋しかない。
「お、やっと大人しくなったじゃねーか」
下卑た笑い声が耳にうるさい。無理矢理に顎を掴まれて顔の向きを変えさせられる。粗暴な扱いをする相手を睨みつけて唾を吐いた山崎は、再び頬を殴打され頭を床に打ちつけた。口の中に広がった血の味を吐き出す暇もなく、今度は髪を掴まれて引きずられる。全身に付いた細かな傷がこすれて痛い。縛られているわけでもないのに、身体が動かないことがひどく不甲斐ない。
「最初からそうやって大人しくしとけば、痛い思いしねーのによぉ?」
「これじゃ売りモンにならねーな」
ぐい、と髪を引っ張り頭を持ち上げられ、至近距離で顔を覗き込まれる。相手の顔に血を吐きかけようかと構えた山崎に気付いたのか、掴まれていた髪を突然離された。そのまま力なく倒れた身体を、今度は爪先で嬲られる。
「どうすんだよ? とっとと次の獲物見つけて来いってお達しだろーがよ」
「この辺探せば戦争孤児なんて山ほどいるんじゃねーのぉ?」
「俺らだってよぉ、たまにはストレス解消ぐらいしねーとな」
「天人様のご機嫌伺いもやってらんねーよな」
「俺らにも楽しむ権利くらいあるだろって話」
2人より、多い。ということまでしか山崎には分からなかった。視界がぼやけていて、相手の顔がはっきりと見えない上、似たような色の着物を着ている。
相手の顔が、はっきりと見えない。見えはしない、けれど。
「おまえら……」
「お? まだ喋る元気があんのか?」
「お前も可哀相になぁ。大人しくしとけば天人様に可愛がってもらえたのによ」
「贅沢できただろうになぁ」
笑い声が頭に響いて吐き気がする。強く目を閉じ目を開ける瞬きを繰り返して、ぼやけた視界をはっきりさせようとするが、上手くいかない。そうこうする間に、力なく投げ出されていた足を一人に掴まれて思わず息を呑んだ。
「ひぃっ」
「代わりに俺らが可愛がってやるよ」
何度目だよ、という笑い声が聞こえた。ふくらはぎをきつく掴まれ、跡が残るのではと思うほどぎりぎりと力を入れられる。逃げ出そうともがく上半身を、別の人間が押さえ込んだのが分かった。
そう。これは。
「大人しくしてりゃ、気持ちよくしてやるよ」
人間だ。
「―――――――――――― っ!」
きつくきつく目を閉じれば、瞼の奥で光がチカチカと光る。がくがくと身体を揺さぶられる中で目を開けることなど出来はしないから、気持ち悪いのを堪えて目を頑なに閉じている。全身が痛くて、痛覚が麻痺している。どこが痛くて、どこが痛くないのかが分からない。心臓と同じリズムで頭がズキズキとしている。吐き気を堪えるのに必死だ。いっそ舌を噛み切ってしまえればそれが一番良かったが、それが出来ない自分は、どこまでも浅ましい。
苦痛は一瞬だ。きっとすぐに終わる。そう思ってから、どれくらいの時間が経っただろうか。自分の身体に何が起こっているのかわからないが、分かりたいとも思わない。ただ、気持ちが悪くて吐き気がして、痛くて苦しくて、そればかりだ。
それでも死ねない。死ぬわけにはいかない。
だってこれは、この命は、
「しっ……すけさっ………」
あの人の救ってくれた命だ。
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